認知症高齢者の不眠治療における睡眠導入剤の減薬・休薬に

2013年、厚生労働省の研究班と日本睡眠学会は「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」を公表しています。

全文は下記サイトよりPDFで閲覧・ダウンロードが可能です。

日本睡眠学会ガイドライン
『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(2014年7月22日更新)』
http://www.jssr.jp/data/guideline.html

はじめに注意しておきますが、当ガイドラインが示すのは「よく効く眠剤一覧」「効果の大きい睡眠導入剤ランキング」などの情報では決してないことにご注意ください。

睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドラインの概要

  • アルツハイマー型
  • レビー小体型
  • 脳血管性認知症

原因別に様々な疾患名が付けられる認知症ですが、睡眠薬や睡眠導入剤について介護者さんが興味を持っておられるのは以下のどちらかの事柄についてではないでしょうか?

  1. 睡眠薬を大量に飲んでしまう認知症の方に対して、適切に減薬してもらいたい
  2. 昼夜逆転、夜間徘徊などの問題行動を、睡眠薬によって寝かしつけることで解消したい

前者は偽薬の活用で解決策を提示できるかもしれませんが、後者の「寝かしつける、静かにさせる」ということを睡眠薬によって達成することはどうやら難しいようです。

不眠ガイドラインの記載によれば

『睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(2014年7月22日更新)』の20ページの記述を引用してみましょう。ここには、睡眠薬による半強制的な寝かしつけが難しい旨の記載がなされています。

認知症では中途覚醒や早朝覚醒など不眠症状がしばしばみられるほか、午睡が増え、昼夜逆転に陥るなど睡眠リズムが乱れます。また、不眠に伴って夜間徘徊やせん妄(意識混濁による興奮)などの異常行動もみられます。しかし、認知症の不眠や異常行動に対して十分に有効で、かつ安全な薬物療法はありません。睡眠薬や抗精神病薬などの催眠鎮静系向精神薬の効果は限定的で、長期間服用すると、むしろ過鎮静のため午睡が増加することがあります。

20ページ、太字を追加

認知症の高齢者に対してよく効く眠剤などない、とはっきり明言されています。

「むしろ」の後の文言に、むしろ期待を見出したい介護者さんもおられるかもしれませんね。

認知症の高齢者によく効く眠剤はないとしつつも、かかりつけの医師に相談して睡眠薬を処方してもらうことが不可能というわけではなく、

処⽅する場合には転倒や認知症状の悪化などの副作⽤の発現に絶えず留意が必要である。また、有効性が認められても漫然と服⽤させず、症状の改善に合わせて適宜減薬もしくは休薬するなど、副作⽤を低減させるよう⼼がけるべきである。

20ページ

とされています。

「有効性が認められても」という記載に科学的根拠に基づかない実験的薬理療法の痕跡が認められ、充分に有効かつ安全な薬物療法は確立されておらずとも、やはり実際に(おそらくは介護者さんの要望に応える形で)睡眠薬の投与はされているのでしょう。

  • 老人薬理学
  • 老体薬理学
  • 高齢者薬理学

未だ名前が定まらないこうした分野は超高齢化が進展する社会の大きな研究課題となっていますが、睡眠薬の長期服薬と薬物排泄能力の低下によって薬剤が体内に蓄積するか否かなど、安全性に関する重要な情報は未だ明らかになっていないことも多いようです。

そもそも睡眠薬や睡眠導入剤の導眠効果・睡眠維持効果は、それを服用されるご本人の「寝たい」という意志があってこその効果であるため、例えばご家族が「寝てほしい」と願ったとしても「寝たい」と思っていないご本人に対してはあまり効果を発揮できないのかもしれません。

それでも、一縷の望みをかけてということであればかかりつけの医師・薬剤師へご相談ください。

不眠ガイドラインに足りないもの

一方で、睡眠薬依存を脱し減薬をするという目的においては何がしかの解決策が偽薬によって提示できるかもしれません。

成人の30%が入眠困難、中途覚醒、早朝覚醒、熟眠困難などいずれかの不眠症状を有する昨今の日本における不眠事情は、長期欠勤や医療費の増加、生産性の低下、産業事故の増加を招き、さまざまな人的および社会経済的損失をもたらすことが明らかとなり、公衆衛生所学上の大きな課題の一つとなっている。

2ページ

そのように「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の緒言では謳われています。

しかし、プラセボ製薬の視点から申し上げれば、このガイドラインにぽっかりと抜け落ちている視点があるように思われます。

それは、「プラセボの積極的利用」に関する視点です。

プラセボとは、有効成分を一切含まない偽薬のこと。

今後の不眠症治療事情を革新的に変えるのは、この“ニセモノ”かもしれません。

認知症高齢者の不眠治療薬の減薬にも対応…?

「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」では巻末にQ&Aコーナーが設けられ、各種質問に答える形で適切な目標達成(睡眠薬なしでの不満なき睡眠状態の維持)へと患者自身を導いてくれます。

ただし、個別の事例に対しコレと言った普遍的で確定的な物言いはできないため、結局「主治医に要相談」とまとめられていることも多々あり、実際に今困っている現状に対し効果的な提案はできない場合がほとんど。

例えば、【Q12】認知症の不眠や昼夜逆転に睡眠薬は効果があるでしょうか?(20ページ)という質問に対して、さきほども取り上げた回答文の全文はこうなっていました。

【患者向け解説】
認知症では中途覚醒や早朝覚醒など不眠症状がしばしばみられるほか、午睡が増え、昼夜逆転に陥るなど睡眠リズムが乱れます。また、不眠に伴って夜間徘徊やせん妄(意識混濁による興奮)などの異常行動もみられます。しかし、認知症の不眠や異常行動に対して十分に有効で、かつ安全な薬物療法はありません。睡眠薬や抗精神病薬などの催眠鎮静系向精神薬の効果は限定的で、長期間服用すると、むしろ過鎮静のため午睡が増加することがあります。また、転倒や骨折、健忘などの副作用の危険性が高まるため、高用量・多剤併用や長期服用は避けるべきです。認知症でみられる睡眠障害は、不眠のほかに、睡眠時無呼吸症候群、レストレスレッグス症候群、睡眠・覚醒リズム障害、レム睡眠行動障害など多様であるため、不眠治療イコール睡眠薬処方と安直に考えず、正しい診断を受けることが大事です。

【勧告】
認知症の不眠症に対する睡眠薬の有効性は確認されていない。処方する場合は転倒や認知症状の悪化などの副作用の発現に絶えず留意が必要である。また、有効性が認められても漫然と服用させず、症状の改善に合わせて適宜減薬もしくは休薬するなど、副作用を低減させるよう心がけるべきである。

ちょいと長いですが、要するに、「認知症患者の不眠に睡眠薬が有効だとは言い切れないし見当識障害の悪化や転倒など副作用も怖いので、できる限り使わない、使っても最小限で様子を見ながら…」と歯切れの悪い回答となっています。

これを読んでみても、今、目の前で不眠症状を訴える方、眠剤、睡眠導入剤を執拗に求める認知症の方に対して、家族や介護職員はどのように行動すれば良いかは全然わかりません。

プラセボを使うなら

偽薬としてのプラセボを積極的に用いることを考えた場合、周囲の介護者の対応はどう変わるでしょうか?

不眠状態が現れた時、不眠の訴えがあった時、まずは「睡眠薬だ」と言って偽薬を飲んでもらいましょう。プラセボ効果が、当人に穏やかな睡眠をもたらすかもしれません。

次に、何度も何度も睡眠薬を求められたら、何度でも納得するまで偽薬を飲んでもらいましょう。もちろん「良く効く睡眠薬だ」と言い添えるのをお忘れなく。

また、既に睡眠薬の高用量・多剤併用や長期服用がある方の場合には、服用されている薬に偽薬を紛れ込ませ、徐々に睡眠薬と置換していく(減薬する)方法が良いかもしれません。

とにかく、意識レベルを低下させる成分など一切含まない偽薬によって、満足感や安心感を与えることができるよう周囲の者が工夫を凝らすと良いかと思います。

ガイドラインの提言よりも具体的な対策がとれるという点で優れているのではないかと思いますが、如何でしょうか?

偽薬を用いる方法の有効性は?

偽薬を用いる睡眠薬の減薬・休薬について、有効性と根拠となる科学的な資料はどこにもありません。健常な成人男性以外に対して実証実験を行うことは、極めて困難だからです。

科学だけではない判断基準

そこには、現象の記録を通じた科学性を伴わない経験の蓄積が残るのみです。サプリメントの購入者の声くらい、科学的には信憑性の低い情報でしかあり得ません。

しかし、実際に何らかの効果感が感じられたり、使用価値を感じるのであれば、科学的根拠に基づいて偽薬使用の可否を検討する必要など全然ありません。

目の前の問題が、より適切だと感じられるよう解決する策があるのなら、それを有効に使ってみてもいいじゃないかと思います。

実際に偽薬を利用してみると?

プラセボ製薬が販売する介護用偽薬「プラセプラス」は、介護の現場で利用され、認知症高齢者の不眠症に対してある種の適切な解決策を提供できているようです。

睡眠薬を飲みすぎて日中フラフラとしてしまう方がいましたが、偽薬に切り替えると以前よりフラフラしなくなりました。また睡眠の質も維持できているようです

眠れないと睡眠薬を執拗に求める方には、納得するまで偽薬を飲んでもらっています。偽薬でも、ちゃんと眠れているようです

そんな感想を頂いています(※個人の感想を一部改編したものであり、効果効能を提示もしくは保証するものでは決してありません)。

認知症状のある方を、ダマすことの是非についてはここでは議論しません。しかし、そうした倫理的なリスクを超えるベネフィットが「プラセボ(偽薬)の積極的利用」には存在していると思います。

次回のガイドライン策定時には盛り込まれる、あるいは偽薬利用に関する調査が行われるといいなぁ、なんて思いつつ。

また繰り返しになりますが偽薬であるプラセボ製薬の「プラセプラス」には、不眠を改善するような成分を一切含まず、プラセボ効果の発現を保証するものでもありませんのでご了承ください。