illustration by いらすとや
お薬を飲むのが得意な人もいれば、苦手な方もおられます。特に小さなお子様の場合、どうしても錠剤・粒薬・玉薬やカプセルを飲み込めないことがあります。
子供にとっては、固形のお薬を飲み込むこと自体がイヤ(もしくは「すっっごく、イヤ!」)なのに、舌の上で溶けて苦くて変な味までしてきたらもう絶対飲んでやるもんかと頑なに拒否されてしまうかもしれません。
薬の上手な飲ませ方があれば教えてほしい…
強権的に無理やり飲み込ませるマッチョな飲まし方も解決策の一つではありますが、より子供の心に寄り添ったソフトな方策を探ってみましょう。
口を上向けるといった小手先のテクニックではなく、信頼感を醸成する本質的な方法のほうがより“効く”かもしれません。
どうして上手く飲めないの?
さて、そもそもどうして子どもが錠剤を飲めない、飲み方がわからない場合があるのでしょうか?
もちろん個々人の資質や喉の形状など特異的な原因がある場合もあるでしょうが、多くの場合に原因は明確ではありません。
どんな課題にも当てはまる一般的な手段であり、不明確な原因に対して対策を練るために私たちにできること。それは、仮説を立てることです。
錠剤を上手く飲ませる方法を確立するための第一歩として、仮説を立てて考えてみましょう。
仮説①:意識的に「飲み込む」ことの難しさ
ご飯時にはモリモリ、ゴクゴクと食塊を飲み込んでいるはずなのに、お薬みたいな小さなものをゴクッと飲み干せないのはどうしてでしょう?
食べ物を口に入れる→しばらく噛む→飲み込む、という一連の「食べる」という行為は、通常ですと特に引っかかることもなくほとんど無意識に進行します。しかし、一旦「飲み込む」という行為だけを取り出して実行しようとすると、中々上手くいかないことがあります。
無意識に、反射的に行っていることを意識的に行うことは、実はとても難しいことなのです。
小脳が司る無意識の運動機能を、大脳皮質を駆使し改めて意識的に行うことの困難が錠剤を上手く飲めない原因の1つなのかもしれません。
仮説②:医薬品への不信感
また、子どもにとって錠剤そのものが「アヤシイ」存在として認識されている場合があります。
乳幼児期になんでも口の中に入れてしまう口唇・口腔探索期間を過ぎた後、それが何かわからない不審物を口にして飲み込むことは本能的な拒否反応を起こすのかもしれません。
それがどれほど重要で大切だと理性的な言葉によって諭されたとしても、感情面で付いていけない場面は大人でもよくあるはず。
医薬品に対する信頼感の不足もまた、錠剤を上手く飲めない原因の1つなのかもしれません。
実践的仮説検証
さて、こどもが錠剤を巧く飲めない原因として2つの仮説を挙げてみました。もちろんこのほかにも「味がマズイ」、「大きすぎる」などあるかと思いますが、これらはテクニカルな対処法が可能と考えられるため、一般的なものとして上記二つに絞り実践的に仮説を検証してみましょう。
失敗が許される環境での練習
まず、無意識レベルでの行いを意識的な動作として実現することを試みましょう。
といっても、難しいことはありません。
練習する
言葉として表現すれば、ただこれだけのことです。
『錠剤が飲めない大人のための、プラシーボ練習のススメ』という別記事でも記載しましたが、錠剤型のお薬を飲む練習にはプラシーボが最適です。
プラシーボとは、薬効成分を含まない偽薬(ぎやく)のこと。薬効成分を含まないため、どれだけ飲んでも害作用は最小限に抑えることができます。
練習をする上で重要なことは、何度でも失敗出来ることです。失敗を許さない対処法は得策とは言えませんが、プラシーボなら何度だって失敗することができます。
失敗を繰り返しつつ、小さな成功体験を積み重ねることで新たな動作が身につけましょう。
「信じる」ことの大きなチカラ
さて、練習を始める前に第二の仮説を取り込んだ方針を確認しておきましょう。
医薬品への不信感を払しょくする、払拭させる方法です。
行動心理学という人間の心理と行動のつながりを探求する学問分野において、「社会的証明の原理」として知られるものを応用した方法になります。
例えば、ラーメン屋さんに行列ができていればついつい「きっと、おいしいのだろう」と信じ込んで並んでしまったという経験はありませんか?
人は何かを選択したり信用したりする上で、「他人の行動」を一つの重要な情報源としています。
お子さんが医薬品を信用できない時、親御さんにできることは「他人の行動」として実際に飲んで見せることに他なりません。
とはいえ、本物のお薬を仲良く分け合って飲むわけにもいかないため、まずはやっぱりプラシーボを利用するのが良いのではないでしょうか。
練習を始めるタイミング
大きめの錠剤(6 mm以上)の場合、一般的に5才未満の子供には飲ませないようです(『子供が薬をいやがるがどうしたらよいでしょうか|愛知県薬剤師会』)。
もし練習用のプラシーボとして「プラセプラス」を使用される場合、「プラセプラス」は直径8 mmと少し大きめの粒となっておりますので、5才以上からのご使用をお勧めします。
また将来困らないように、前もって練習する必要があるか?も気になるところでしょうが、前もって練習する必要はないだろうと思います。錠剤型の薬を飲む必要があるけれど、どうしても飲むことが出来なくて困るという場面に出くわすまで練習の必要はないと考えています。
市販薬の年齢制限
医師の処方で出された医薬品の場合には問題ないと思いますが、市販薬を子供に飲ませる場合、一定の注意が必要です。
大人が飲んでいる薬を、勝手な判断で半量だけ子供に飲ませるなどの方法は不適切な場合があるためです。
「15歳未満の小児は使用できません」旨の記載があれば、その医薬品を小児用に転用するのは絶対に避けてください。
練習の方法
さて、名軍師・山本五十六の言葉に『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ』というものがあります。何かを人にさせる場合、この順でやると上手くいく(この順でやらないと上手くいかない)という経験則です。
幼児、小学生に薬を上手く飲み込ませるにも同じことが言えます。
やってみせ、言って聞かせて
まずはあなたが一粒手に取り、舌に載せ(しっかり見せる)、口に水を含み、少しあごを上げてゴクリと飲み込みます。そして舌を出して粒がなくなっていることをしっかりと見せます。
「飲み込むって、こういうことよ」と。
させてみせ、ほめてやらねば
次にお子さんにも同様に一粒手に取らせ、自分で舌に載せさせ、口に水を含ませ、少しあごを上げるところまで真似をさせてゴクリと飲み込ませます(ここまでを一緒にやっても良いと思います)。
上手く飲み込めたでしょうか?
何度か試して成功したらほめてあげてください。舌をベーッと出して一緒に笑うのもいいですね。失敗したって構わないのです。数多の失敗の中で、少ないながらも小さな成功体験を重ねるのが練習の本質だからです。
成功の確率を上げていけば、いつしかきっと一人でも飲み込むことができるようになりますよ。
人は動かじ
もし、真似をさせて上手く飲み込めないとしたら「プラセプラス」の粒が大きすぎるのかもしれません。
そんな時は、粒を薬包紙に包み、瓶でたたいて粒を砕き(あるいは、乳棒でコツコツと叩き割り)、破片の一部をまずあなたが飲み込む。次に、小さい破片をお子さんに飲ませる。これを繰り返して少しずつ大きな破片を飲み込めるようにするのが良いかもしれません。
薬包紙で包み、お箸のアタマ部分で叩く。
乳鉢&乳棒を使って、より雰囲気を重視する。
いずれにせよ、同じものをあなたが飲み込むところを実際に見せるのはお子さんがそれを飲み込む際に最も良き手本になると思います。
繰り返しになりますが、それは飲み込むもので、飲み込めるものだと信じられることは、上手く飲み込むためにはとても大切なことだからです(広ーい意味で、これもプラシーボ効果と呼べるかもしれません)。
お困りでしたら、ぜひ実行してみてください。
便利グッズ
裸のままの錠剤を、1杯の水だけでグイッと飲み干すのが最高にカッコいい…という思想信条を親御さんがお持ちであるのでなければ、子どもがおくすりを飲み込みやすいように開発された各種便利グッズを活用しても良いでしょう。
服薬ゼリー
錠剤をゼリーで包む。ただそれだけのことなのに、喉を通るスムーズさは驚くほどに。
服薬ゼリーは通販でも、またご近所のドラッグストアなどでも購入することができます。
実際に購入して利用されている方の声などチェックしてみてはいかがでしょうか。Amazonカスタマーレビューの有用性たるや。
おくすり、こくり
「こくり」という喉元を過ぎ行く素敵な日本語の擬音・擬態表現があります。
「おくすりも、こくりと飲みこめたらいいのに…」
そんな期待に応えるアイデア商品があります。すでに過去の記事でも紹介しましたが、その名もずばり、「おくすりこくり」。
錠剤の飲み込み易さにこだわった服薬介助コップです。お子さんの場合、薬を飲むという「イヤッ!」な気持ちがくまモンによって緩和されたなんて話も。Amazonでも買えますので、是非チェックしてみてください。
合わせ技
服薬ゼリーと「おくすりこくり」の合わせ技で、錠剤をゼリーで包み、おくすりこくりで飲み干してみればアラ不思議。
スルリと喉を通って行ったとの利用者さんの声もあるみたいです。
実践されてみてはいかがでしょうか。
守っていただきたい注意点
上記の練習は大人の目の届くところで行ってください。
また、有効成分を含まないプラシーボの場合は粒を砕いても問題ありませんが、薬効成分を含む実薬の中には錠剤を砕いて飲んではいけないものがあります。砕いて良いか判断のつかない場合は医師・薬剤師にご相談ください。
「プラセプラス」での練習時には、いくら噛み砕いても構いません。
カプセルの練習なら
錠剤ではなくカプセル剤が飲み込めない場合には、空のカプセルを利用した方法が有用かもしれません。
「子供にカプセルをうまく飲ませたいなら、慣れ重視の飲ませ方を」という記事で紹介していますので、ご覧ください。