介護ロボットに本気出す厚生労働省老健局@2016

介護現場でのロボット実用化・普及に向けて、平成28(2016)年度、厚生労働省が本気出す。

介護ロボット施策

超少子高齢化の進む日本では、数年後に介護人材の100万人規模での不足が懸念されています。外国人労働者を介護現場へ雇い入れる、介護職員の賃金待遇を改善するなどの施策が人材不足の対応策として検討されているほか、「介護ロボットの開発」も目下進行中。

未だ定まった「介護ロボット」の定義があるわけではないようですが、介護というお仕事の効率化や介護者の身体的負担を軽減することを目的に様々な電動機械・器械が開発されています。

「ロボット」と聞いて真っ先に思い浮かぶ「人型ロボット」も既に実地での導入試験が始まろうとしているようです。

行政機関の管轄

ちなみに、国の機関として「介護」は主に厚生労働省の、「ロボット」は経済産業省の管轄となっています。

平成27(2015)年4月には、両者に「科学技術」担当の文部科学省を加えて、これらの統括機関として内閣府主管の「国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMDE)」が設立されました。

国の介護ロボット研究開発事業に関しては全部が全部「日本医療研究開発機構」が取り仕切るかと言えば、さにあらず。各機関が独自の予算で事業を推進しています。

厚生労働省が本気出す

本記事では厚労省による「介護ロボット関連事業」を眺めてみたいと思います。平成27年度補正予算にて多額の予算を計上した「介護ロボット」関連事業、平成28年度予算からはさらに具体化の取り組みへと積極的に補助金を出すことにしたようですので。

平成28年度

介護ロボットの実用化には、現状、様々な障害があります。

  • 介護現場はただでさえ手一杯なのに、ロボット導入の実験なんてしてらんない!
  • 介護は人の手でしてこそ、でしょ?
  • どんなロボットがあるのか、まるでわからない
  • とにかく価格が高いので手が出せない

そうした問題を解消すべく、一件当たり2,000万円までの補助金を出して調査研究してもらおうという計画が出されました(応募は平成28年3月16日締め切り)。

  • 福祉用具・介護ロボットの貸与(販売)価格の適正化に関わるシステム構築に関する調査研究
  • 介護ロボットの普及促進に資する啓発イベント等の実施モデル事業
  • 特別養護老人ホームへの介護ロボットの導入に伴う効率的・効果的な介護提供体制のあり方に関する調査研究事業

詳細は下図。

「老人保健健康増進等事業|厚生労働省」より引用

もう「売る」だけじゃなく「貸す」、レンタルやリースもやってみましょうと。啓発イベントで一気に普及させましょうと。特養にはロボット入れちゃいましょうと。厚労省の本気、ここに見たり。

平成27年度

とは言え、平成27年度から既に「介護ロボット」に関する厚労省主管の調査研究は実施されていました。

「介護ロボットの有効活用に必要な方策等の検討に関する調査研究事業」という名目で、公益財団法人 テクノエイド協会が主体となり実施しています。

平成28年3月ごろには当調査研究の結果が報告されるものと思われます。2016年2月3日のウェブ記事「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業の現状と今後-介護現場との協働と共創が必須の介護ロボットの開発-|ニッセイ基礎研究所」ではその具体的内容について触れられています。

なお、公益財団法人テクノエイド協会は、平成26年度に経済産業省の補助事業である「ロボット介護推進プロジェクト」をも実施していました。

平成26年度

平成26年度、厚生労働省では「在宅における介護ロボット普及の課題と福祉用具専門相談員の役割に関する調査研究事業」一般社団法人 全国福祉用具専門相談員協会に実施させています。この段階では「その他」扱いの分野だった模様。

大部の「事業報告書」がありますので、興味がありましたらお読みください。

平成25、24、23年度

平成25年度以前には老人保健健康増進等事業として「介護ロボット」を明記したものは見当たりません。

が、「平成23年度厚生労働省予算案の主要事項」という資料中に老健局振興課を担当部局とする「介護ロボット」関連項目があります。

第6 良質な介護サービスの確保
2 安心で質の高いサービスの確保
(3)適切なサービス提供に向けた取組の支援等 
①福祉用具・介護ロボットの実用化の支援【特別枠】(新規)
福祉用具や介護ロボット等の実用化を支援するため、試作段階にある当該機器等を対象として、臨床的評価や介護保険施設等におけるモニター調査等を実施する(10件の機器を目処)。

予算枠は83百万円。すなわち、8,300万円。

当事業については先述の公益財団法人テクノエイド協会が「福祉用具・介護ロボット実用化支援事業」として実施し、報告書をまとめています。平成23年度に続き、24年度、25年度も公益財団法人テクノエイド協会が実施。

平成23、22年度

なお、この時期には国に先駆けて神奈川県が「介護ロボット普及推進事業」公益社団法人かながわ福祉サービス振興会に委託し、先駆となる調査報告書をまとめています。

「介護ロボット普及推進事業」

平成22(2010)年9月16日のプレスリリースにはこんな記載も。

将来的には、国や自治体からの補助制度などの確立により、利用側の利便性が増して生産コストが下がり、介護ロボットの普及が一気に進むことを期待しています。本年度の事業モデルでは、世界で初めて我が国が経験する超高齢化社会の到来を見据え、神奈川県が全国に先駆けて最初の一歩を踏み出すことになります。

ただし、2015年05月14日のウェブ記事(『ロボット推進事業関係者が語る、「介護ロボット」が普及しない理由 – ITmedia ビジネスオンライン』)では、この事業に関する事業グループリーダーの感想が述べられています。

 同事業に取り組んで5年が経つが、「広く普及していると言える状況ではない。現場で高評価受けているロボットは数少ない」と関口氏は嘆く。

さて、本気を出した厚労省の試みが「嘆き」を「歓喜」に転換し普及に弾みをつけるでしょうか…。

まとめ

厚生労働省、その他が実施する「介護ロボット」関連事業を時系列でまとめてみました。

年度実施主体事業内容等
H22(公社)かながわ福祉サービス振興会介護ロボット普及推進事業
H23(公財)テクノエイド協会福祉用具・介護ロボット実用化支援事業
H24経産省・厚労省「ロボット技術の介護利用における重点分野」を策定
(公財)テクノエイド協会福祉用具・介護ロボット実用化支援事業
H25内閣府介護ロボットに関する特別世論調査
経産省・厚労省「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂
(公財)テクノエイド協会「介護ロボットの実用化に関する相談窓口」を開設
H26(一社)全国福祉用具専門相談員協会在宅における介護ロボット普及の課題と福祉用具専門相談員の役割に関する調査研究事業
H27(公財)テクノエイド協会介護ロボットの有効活用に必要な方策等の検討に関する調査研究事業
H28公募「介護ロボット」の具体的な普及推進事業(3件)

平成28年度予算案

平成28年度予算案(老健局)を眺めてみますと、平成27年度補正予算案の「介護ロボットや ICT の効果的な活用方法の検討等 1.6億円 」、「介護ロボット等導入支援特別事業 52億円」に引き続き、下記の事業を予算計上しています。

  • 介護分野の効率化・ICT化等による生産性の向上【新規】 1.3億円
  • 介護ロボット開発等加速化事業【新規】 3億円

まぁ、介護保険関連へは2兆円という桁違いの予算が計上されていますので投資割合としては微々たるものですが、それでも。力、はいってます。

経済産業省の事業

厚生労働省の「介護ロボット」関連事業とは別枠で進められてきた、経済産業省の「ロボット介護機器」関連事業に関してもまとめました。