反跳性不眠の克服を邪魔する減薬期間の睡眠不安は偽薬対策で改善できる?

反跳性不眠という言葉をご存知でしょうか。

継続的な不眠症状に悩まされていたので心療内科やクリニックで睡眠障害の治療を受け、処方された睡眠薬で安定的な睡眠がとれるようになり、さてそろそろ治ったかな?という段階に来たら、いよいよ薬を減らし、ついには薬なしでも眠れる生活へと戻ることを考えねばなりません。

しかし、数か月の長きに渡り飲み続けたくすりを突然辞めてしまうと、途端に症状が悪化し、ともすれば治療開始前より不眠が深刻化し不安が強く出る場合があります。

治療により得られていた穏やかな睡眠が、突然壁にぶつかって反対側へ跳ねるように不眠へと逆戻りしてしまうのです。

抗うつ剤や抗不安薬でも減薬時に同様の反跳現象が見られる場合があり、離脱症状退薬症候と呼ばれますが、睡眠薬を減薬する試みが不眠を導く例がとても多いために、独立した医学的事象として反跳性不眠という専門用語が用いられます。

意思による克服が難しい反跳性不眠に偽薬を応用することで解消、改善が求められる可能性がある…という仮説を提示するのが今回の主題。はてさて。

反跳性不眠の一般的理解

反跳性不眠の説明として、ベンゾジアゼピン系睡眠薬に限った反跳現象と記載される場合があります。作用時間の短い薬が反跳性不眠を起こしやすいのだ、と。

さらに、ベンゾジアゼピン系睡眠薬によるリバウンド(反跳)現象は特化した医学用語として「ベンゾジアゼピン離脱症候群」と呼ばれることも。

頻繁に認められる事象をひとつの治療対象概念としてコトバにすることは、他分野でもおなじみの現象です。

他の睡眠薬でも起こる

ただし、ベンゾジアゼピン系に属さない睡眠薬や睡眠導入剤でも「私は睡眠薬がないと眠れない!」と強く思い込んでいるようであれば減薬時に反跳性不眠を伴うことがあります。

不眠治療においては、脳に直接作用させる半強制的な薬理学的効果以上に、眠れないことの不安を解消もしくはコントロールすることが重視されます。不安は、眠りを遠ざけてしまうからです。

現に、医薬品の臨床試験において有効成分を含まない偽薬が主観的な寝入るまでの時間を示す入眠潜時を短縮させた例は探せばいくらでも見つかるでしょう。プラセボ効果のような気分の問題、気の持ちようが睡眠には深くかかわっています。

睡眠薬の減薬・退薬は難しい

睡眠障害治療の目的は、「睡眠薬の永続的利用により満足のいく睡眠を得ること」ではありません。

「睡眠薬の助けがない状態でも、本来の眠る力を発揮できるようにすること」です。

しかし、一度睡眠薬で眠れる経験をし、あるとき飲み忘れてまったく眠れないような経験をすると、また不眠に逆戻りするのではないかという恐れが睡眠薬に対する精神的な依存を生み出してしまいます。

「眠れない」という不安に、「薬を飲んでいない」という不安が積み重なる。これほどスムーズな寝入りを、安眠を阻害するものはありません。

担当の医師から「それは錯覚ですよ、あなたにはすっかり眠れる力が戻りつつあります」と説得されても、今ここにある不安がどこかへ消えてなくなるわけではありません。眠れないかもしれない恐怖を追いやるには、少しの勇気でもってその恐怖に向き合ってみることが大切だとはわかっている。けれども…。

眠れない夜の冗長なダルさ、翌朝のスッキリしない寝覚め。依存症形成もやむなしと思わせるネガティブな感覚が、不眠にはあります。

減薬・断薬に向かう一歩

いや、自然な眠りを取り戻すためなら眠れぬ数夜を過ごしてもいい。健やかなる未来の為に、勇気を振り絞る。そう決心されたのなら、慌てるなかれ、徐々に薬を減らしてゆく漸減法など、3つの方法が提唱されています。

※ご実施の場合、かかりつけの医師に相談されることを強くお勧めします。

①漸減法

内服量を減らす。飲む錠剤自体を減らしたり、錠剤を割ったりして、体内に取り入れる睡眠薬成分を減らしてゆく。

数か月のスパンをとり、一回当たりの減少量を4分の1に設定し、徐々に睡眠薬なしで眠れるように身体を慣らしてゆく。

こうした方法を「漸減法」と言います。

②隔日法

漸減法とは異なり、飲む日・飲む回数を減らすのが「隔日法」とよばれる減薬方法です。

昨日飲んだから、今日は飲まない。今日飲むなら、明日は飲まない。

しばらくしたら間隔を拡げます。昨日飲んだから、今日、明日は飲まない。今日飲むから、明日、明後日は飲まない。

そんな風に隔日法を漸減法を組み合わせて、最終的には薬が無くても眠れる、あるいは少なくとも不安が強くならないことを目指します。

③置換法

睡眠薬には様々な特徴を持つものがあり、反跳性不眠を誘発しやすいもの、しにくいものがあるとされています。

そこで、一旦反跳性不眠を起こしにくいものに換え、そこから漸減法や隔日法を組み合わせて減薬を実施する方法があり、これを「置換法」と呼びます。

また、睡眠薬をサプリメントやハーブティーやアロマセラピーや身体操法やその他の代替医療的な療法へ切り替えることをもって「置換法」とする例も。

新提案:偽薬置換法

当ブログを運営するプラセボ製薬ではプラセボ(偽薬)の積極的な医療応用について、真剣に考えています。当記事で対象としている反跳性不眠は、その足掛かりとなるかもしれません。

どうしてでしょうか?

それは、反跳性不眠が習慣的行動の大幅な変更を伴う、困難な事業だからです。

習慣を変えることは難しい

ヒトは、2週間(14日間)程度で与えられた環境に適応する柔軟性を持っていると言われています。したがって、14日間以上の服薬は新たな習慣を生み、その変化を嫌うようになります。

ここに、反跳性不眠の原因の一つがあります。

「いつも飲んでいるのだから、今日も飲まない理由はない。」

習慣と依存は紙一重。その区別は曖昧なものです。その習慣を変えることは、恐怖を呼び起こします。進化論に基づいた本能的な恐れです。

できるだけ変えずに、変える

習慣的行動を大きく変えてしまうことにはストレスが伴います。であれば、変更の必要がある習慣は徐々に変えるしかありません。「漸減法」などもその一つ。

ただ、「睡眠薬を飲む」から「睡眠薬を飲まない」への変更がありとあらゆる意味で大規模であるのに対し、「睡眠薬を飲む」から「偽薬を飲む」への変化は比較的小さいと言えるでしょう。

薬効成分の血中濃度は変わるかもしれませんが、習慣的行動自体は変わらない。プラセボ効果の例を見れば、行動の変化がもたらすストレスと効果は血中薬物濃度の変化がもたらすそれと大差がないように思われます。

だとすれば、「薬を飲まなきゃ眠れない」の恐怖の一端は、「(偽)薬を飲む」という行為によって解消できるかもしれません。

偽薬への依存へ

睡眠薬依存症の依存の対象は、薬効成分自体と薬を飲むという行為自体に分別できるものかもしれません。この2つを同時に失わせる恐怖が反跳性不眠を深刻化させているのだとすれば、後者を偽薬によって肩代わりできる…かもしれません。

徐々に薬物量を減らし偽薬摂取量を増やした結果、偽薬服用行為依存が形成されたとしたら、それは一つの医学的達成と呼べるような気も。

偽薬の価値を考えたい

睡眠薬や睡眠導入剤は一度のみ始めたら、ずっと飲まなきゃならない。薬物依存症みたいになる。そんな恐れから、慢性的な不眠に悩みながら睡眠薬の服用を躊躇う場合があります。もちろん、その意志に反して飲ませようという心づもりは毛頭ありません。

しかし、睡眠障害が何らかの深刻な不調を既にもたらしているのだとすれば、睡眠薬の使用は一つの選択肢として考慮されるべきかもしれません。

偽薬置換法で断薬が可能かもしれないと知ったことがきっかけで睡眠薬を試してみる気になったとすれば、それは偽薬の価値と言えるでしょう。

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最後に

眠れずに不安な夜をお過ごしの方は、すでに様々な対策を実行した上で眠れていないのでしょう。

  1. 日中もカフェインを含む飲料は摂らない
  2. 寝る前のスマホ、テレビはやめる
  3. 体温低下がスムーズになるよう、足先は布団から出してみる
  4. 眠れないことについて脳が勝手に悩み出したら、腹式呼吸に意識を集中する

それでも、上記の対策を未実行でしたら一度お試しいただければと思います。あなたにはスヤスヤと眠りにつく力がある。それは、ヒトである以上間違いのないことです。本当に。