ロボット産業の介護分野への応用を推進する経済産業省

日本の経済産業省は成長(期待)産業の一つに「ロボット」を位置づけています。その視線の向く先は生産現場だけではありません。

超高齢化社会を迎え、人材の圧倒的不足が懸念されている介護分野にも向けられています。

省庁の連携分野

ロボットを「つくる」、「使う」と言えば製造業が舞台となりますので、当然、経済産業省が主管することになります。

ただ、ロボット活躍の場は何も製造業に限りません。災害現場や物流などへの導入が検討されていますし、介護や医療への応用も考えられています。そうした場合、他省庁との連携事業として国家プロジェクトが進められることとなります。

特に人材不足の深刻化が懸念されている「介護」分野においては、投資と課題検討、研究調査を厚生労働省とタッグを組む形で進められつつあります。

AMED

平成27年4月からは省庁横断の壁を取っ払うべく(?)、内閣府の掛け声で国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)なる組織が誕生し、介護ロボット開発を統括する形をとり始めたようです。

ここに至るまでの経産省における介護ロボット政策を振り返ってみましょう。

平成21-25年度

実は、介護ロボット関連政策に関しては既に一区切りもふた区切りもついています。

なぜか?

現場導入までの道筋があんまり見えてこないから…というのは単なる邪推ですが、少なくとも平成27年度時点でいくつかの組織改編等が実施済みであり、プロジェクトの完遂につき発展的解消したと思しきいくつかの事業があります。

生活支援ロボット実用化プロジェクト

なかでも「ロボット介護機器」ではなく、「生活支援ロボット」というより一般的な語句を用いたプロジェクトは平成25年度までに終了しました。平成27年度現在、経産省関連団体・事業では「介護ロボット」ではなく「ロボット介護機器」と呼ばれているようです。なるほど。

さて、既に完了した「生活支援ロボット実用化プロジェクト」。

国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が主導していました。

NEDOホームページより引用

経済産業行政のマネジメントを担うNEDOが本プロジェクトで目標としたのは、「安全性評価の手法確立」です。裏を返せば危険性評価の方法を模索する事業でもあったわけですが、確かに、ロボットは人間以上のパワーやスピードを出せたり目配りが出来なかったりと様々な懸念があるわけで、まず安全性を確保する方法を開発するというのは非常に理に適っています。

詳細はNEDOのウェブサイト『生活支援ロボット実用化プロジェクト』にて。

『第1回「生活支援ロボット実用化プロジェクト」(事後評価)分科会』(平成26年10月3日開催)にて、事業成果が報告されています。

平成25年度

「生活支援ロボット実用化プロジェクト」が平成25年度までに完遂後、平成24年11月公表に公表された「ロボット技術の介護利用における重点分野」のロボット介護機器を開発すべく、あらたに関係機関を巻き込んで「ロボット介護機器開発パートナーシップ」が組まれることになりました。

重点分野

NEDO『ロボット介護機器開発パートナーシップ』より引用

なお、こちらの図は平成24年11月公表の「ロボット技術の介護利用における重点分野」が、平成26年2月3日に改訂(分野拡大)されたものです。

詳細は平成27年5月12日開催の「第9回パートナーシップ会合」において提供された資料『0. 基本計画書の変更について、中坊嘉宏(産総研)』にありますので、興味があればご覧ください。

介護ロボットポータルサイト

当事業のインターネットを介した広報機能は『介護ロボットポータルサイト』という、機能をどストレートにアピールする可愛げのない名前のウェブサイトに委ねられています。

(すてきな愛称でも募集すりゃええんとちがうん…?「マイナポータル」もアレですけど、こちらのほうが工夫を感じはします)

なお、繰り返しになりますが「介護ロボット」は厚労省ワード。「ロボット介護機器」が経産省ワードです。行政の縦割り感を十二分に感じたい方は、その辺りを注意の上『介護ロボットポータルサイト』を眺めて見てはいかがでしょうか。

ロボット介護機器開発・導入促進事業

経済産業省が進めてきた事業は「ロボット介護機器開発・導入促進事業」と呼ばれ、事業コンセプトとして以下3点が謳われています。

  • 現場のニーズを踏まえて重点分野を特定(ニーズ指向)
  • ステージゲート方式で使い易さ向上とコスト低減を加速(安価に)
  • 現場に導入するための公的支援・制度面の手当て(大量に)

ほぼ確実に不足が見込まれる介護人材問題。海外から人を呼び介護職員として育成する事業もありますが、ロボット技術の導入による効率化も非常に大きな期待を背負っています。

ただ、「営利目的」だけでは初期コストや失敗のリスクが高すぎるため企業が参入に躊躇してしまう、ならば公的な資金を投入して可及的速やかに達成してやろう!というお話かと。人材、財政の面から社会保障制度の持続可能性を維持することは、目下の国家プロジェクトとなっています。

2025年、「団塊の世代」と呼ばれる人たちが75歳以上の後期高齢者となる未来の社会は、まさに「今」に掛かっています。

平成26年度

平成26年度は上記事業が継続するほか、ロボット関連事業の普及促進に25年度の補正予算が付き、これまで厚生労働省と関連の深かった公益財団法人テクノエイド協会(ATA)が経済産業省の補助事業を実施しました。

『ロボット介護推進プロジェクト|公益財団法人テクノエイド協会』

ATAによる一連の事業は平成27年3月の『福祉用具・介護ロボット実用化支援 2014』にまとめられています。「介護ロボット」ですので、厚労省主導ですが…。

首相官邸より

また安倍内閣総理大臣は介護ロボットを含むロボット産業を国家成長戦略の中枢に位置付けており、平成26年度より、27年度以降のプロジェクトにつながる「ロボット革命実現会議」を主宰していました。

『ロボット革命実現会議』

目指すは、世界一のロボット大国。

平成27年度

上述の「AMDE」は平成27(2015)年4月に発足。当時は米国のNIH(国立衛生研究所)に倣った「日本版NIH」として脚光を浴びました。

AMDEの名称はただでさえパッと見では理解し難いですが、国立の研究開発を行う法人であり、日本(版)、医療を中心に介護などの周辺分野まで研究・開発を統括する安倍内閣肝入りの機構とでも言いましょうか。長い。

とにかく、こちらの機構は経済産業省の「ロボット介護機器開発・導入促進事業」を引き継ぐことになりました。

『ロボット介護機器開発・導入促進事業|医療機器研究科|国立研究開発法人日本医療研究開発機構』

上記の「パートナーシップ」や「ポータルサイト」もそのまま引き継がれています。

予算

ここで、経済産業省が公表する事業予算の概要を年度ごとに見てみましょう。

平成26年度。平成25年度の追加補正予算あり。

続いて、平成27年度(2016年3月現在進行中)。

(補正予算を除けば)25.5億円という予算規模、2030年までに約2,600億円の市場規模という目標。いずれも変わらずでした。

平成28年度

引き続き、平成28年度予算“案”を確認。2016年4月以降の予算案です。

おっと、予算の縮小(25.5億円 → 20.0億円)。そして「移動支援、入浴支援等の2分野に開発支援対象を絞り」という、これら以外の分野選択を来年度もと考えていた企業にとっては、はしごを外された感のある文言が追加されています。

平成28年2月3日掲載のお知らせ『平成28年度「ロボット介護機器開発・導入促進事業(開発補助事業)」に係る公募について』を見ると、記載がありますね。

平成28年度に募集する「屋内移動分野」、「入浴支援分野」は最後の1年の事業期間になりますが、平成28年度からの幾つかの緩和事項を含め、以下の通り、運用について工夫しています。
(中略)
※「屋外移動分野」及び「介護施設見守り分野」は平成26年度で、「装着型分野」、「非装着型分野」、「排泄支援分野」及び「在宅介護見守り分野」は平成27年度で終了しております。

事業自体は近々終了するみたいですね。お知らせリンク先にある研究計画(PDF)にも、以下の記載が。

ロボット介護機器開発・導入促進事業の実施期間は、平成25年度から平成29年度までの5年間とする。

へぇ、前々から決まってたんだ。

おさらい

ここまでの流れをおさらいしておきましょう。

経産省とNEDOが主導した平成21-25年度の『生活支援ロボット実用化プロジェクト』

それを引き継いだ平成25、26年度の『ロボット介護機器開発・導入促進事業』

平成27年度からは実施主体をAMDEに移し、『ロボット介護機器開発・導入促進事業』が続行。

平成28年度はまた一旦の区切り(事業終了)となるようです。

一応、政府主導のロボット介護機器情報は『介護ロボットポータルサイト』に更新することとされていますので、続きはWebで。

厚生労働省

本記事で何度か触れたように、「ロボット介護機器」の経産省とは別口で、「介護ロボット」に関する調査研究等の事業が厚生労働省によって行われています。