医療機関で偽薬を販売する場合はサプリメント等の食品の例を参考に

医療機関でサプリメント等の食品(いわゆる健康食品を含む)を販売することは可能でしょうか?

条件付きながら、可能です。

医療機関の経営基盤の強化

「政府の規制改革推進」と聞けば、何が思い浮かぶでしょうか。実に様々な分野で規制改革が進行中であり、医療においてもそれは例外ではありません。

※下記画像は『規制改革会議 公表資料 – 内閣府』より入手しています。

規制改革に関する第2次答申(平成26年6月13日)

2014年6月、下記事項が答申に盛り込まれました。

⑧医療機関の経営基盤の強化(p8)
医療保険制度の持続可能性を高め、国民が将来にわたって最適な医療サービスを享受するためには、医療機関の経営基盤を強化し、質の高い医療を効率的に提供できる体制づくりが求められる。
このため、経営経験が豊かな人材の活用の促進、法令遵守体制の構築、医療機関が提供できる医療に付随するサービスの範囲の明確化等を行う。

急速な少子高齢化により財政的に厳しくなる一方の医療保険(健康保険)制度では、今後も続くとみられる診療報酬の改定(引き下げ)を通じて医療機関の経営が逼迫すると予想されます。制度の「持続可能性」を考える上で、医療機関の経営基盤の強化が求められます。

また、医療機関の経営基盤の強化の具体策の一つとして、「業務範囲の明確化」も謳われました。

ウ 医療機関における業務範囲の明確化【平成 26 年度上期措置】(p21)
病院や診療所などの医療機関において、患者のために、医療提供又は療養の向上の一環として食品等を販売することは可能である。しかし、一部の自治体等による指導がその旨を踏まえたものとなっていないため、医療機関が患者のニーズに合ったサービスを適切に提供することができない現状がある。
したがって、医療機関において、患者のために、医療提供又は療養の向上の一環としてコンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売が可能であることを明確化し、周知を行う。

コンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売に関して、「医療機関において、患者のために、医療提供又は療養の向上の一環として」という条件付きで可能であることを明確化しました。

これは、これまでも可能であった医療機関におけるサプリメント等の食品の販売が、行政機関によっては対応に差があった(一部の自治体では販売が認められず指導されるケースがあった)点を是正すべく統一見解として明確化されたものです。

以上の事は平成26(2014)年6月24日に閣議決定され、同年8月28日、厚生労働省医政局総務課より、都道府県・保健所設置市・特別区の医療担当部(局)担当者に向けて事務連絡が出ています。

連絡内容については下記ページの最下部よりPDFファイルで確認できますのでご参照ください。

『保険医療機関におけるコンタクトレンズ交付に係る報告について/近畿厚生局』

Q&A

『保険医療機関におけるコンタクトレンズ交付に係る報告について/近畿厚生局』では、平成27年4月17日付の事務連絡「医療機関におけるコンタクトレンズの販売等に関する質疑応答集(Q&A)の送付について」も掲載されています。

その内容のほとんどは「コンタクトレンズ」に関するものであり、「サプリメント等の食品の販売」に関してはそれが可能である旨を繰り返すのみです。

本来業務、付随業務?

『医療法人・医業経営のホームページ|厚生労働省』では、 平成26年3月19日現在の医療法人の業務範囲が示されています(施策紹介 > 1.医療法人制度の概要 > 医療法人の業務範囲)。

上述した平成26年6月の規制改革は、この3月に示された業務範囲に「コンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売」を明記することを促す内容でした。

付随業務?

下図(一部拡大して再掲)を観れば、「コンタクトレンズ等の医療機器やサプリメント等の食品の販売」が付随業務に当たるような印象を受けます。駐車場業と並んで、売店業務の販売品目(緑の枠囲い)の一つとして表示されているためです。

本来業務?

しかし、元東京都医療法人指導専門員の方が書かれた『医療機関でコンタクトレンズやサプリメントの販売ができる』というブログ記事(2014-11-11)に依れば、本来業務であるとの見解もあるそうです。

まず一番懸念するのが、医療法人の場合は今まで物品の販売がその額に関わらず収益業務にあたるとして、付随業務とみなされる範囲であるか、社会医療法人などでない限りできないと東京都では指導されてきました。

そして付随業務と認めるかどうかは病床の有無によるとして、無床の診療所ではその患者さんのための物品の販売もダメだとされてきました。

この件につき、この事務連絡を受けて医療法人での患者さんへのコンタクトやサプリメントや歯ブラシやらの販売は、規模に関わらず付随業務であると考えて良いのかを厚生労働省の医療法人担当部署に確認をしたところ、総務課が医療機関であればできると言っているのだから、これは本来業務として捉えて良いと考えているのとのご回答。

付随業務ですらなく本来業務でよいとは!

事務連絡に関しては関係者間の思惑に不一致があるため、「附随業務」、「本来業務」のいずれに当たるかの解釈は自治体によって幅があるけれども、運営が社会医療法人等に限定される「収益業務」ではないと考えるのが現実的かもしれません。

ちなみに、株式会社など営利を目的とする法人が医療機関を経営することはできません。株式会社による医療機関経営への参入については規制改革の一環として議論が進められています。「収益業務」の運営法人が限定されるのは医業が非営利を標榜するためだと考えられます。

混合診療

保険医療機関においては「患者のために、医療提供又は療養の向上の一環として行う」物品の販売に関して、混合診療に当たるか否かも問題になるところです。

この点に関しても上記ブログ記事では「コンタクトレンズの販売」に限定して言及されており、この時点ではグレー(未調整)であるとしています。

ただし、『保険医療機関におけるコンタクトレンズ交付に係る報告について/近畿厚生局』に掲載された、平成27年6月16日づけの厚生労働省保健医療課長より地方厚生(支)局医療課長宛ての通知によれば、以下の点を押さえれば保険診療下でも混合診療には当たらない物品販売になるのではないかと考えられます。

  1. 他所でも購入できる旨説明し、(口頭で)同意を得る
  2. 価格を社会通念上適当なものとする
  3. 保険診療の費用と区別した内容の分かる領収証を発行する

そもそもが「医療機関の経営基盤の強化」を目的とする規制緩和策の一つであったため、柔軟な対応が認められるのも宜なるかな。

なお、当通知においては「コンタクトレンズ等」と「コンタクトレンズ」が区別され、前者のみサプリメント等の食品を含むこととされています。また、「交付」という言葉が「販売」に代えて使用されていますが、「交付」は患者のみ、「販売」は不特定多数を対象とする旨が前記「Q&A」に記載されています。参照される場合にはご注意を。

サプリメント独自の疑問

サプリメントや健康食品に関しては診療所やクリニックを経営する個人医師によるオリジナル開発品もあるでしょうし、それが患者のために、療養の向上に資すると考えられるなら独占販売も可能でしょう。

さらに、その優位性を強く訴えることで比較的高価なものをも販売できる可能性があります。「社会通念上適当なもの」とは言え、主観的判断が大いに紛れ込む余地がありますゆえ。

「あの病院は高いサプリを売りつけてくる」などの噂が立つと医業に支障が出てくる可能性もありますし、「あのサプリはあの医院でしか手に入らない」となれば経営基盤は盤石となるやもしれません。

偽薬(プラセボ)の販売に関すること

医療機関

これまでの話で言えば、医療機関においても食品としての偽薬(プラセボ)を販売することは、患者のために、療養の向上を目的として行われるものである限り、可能なようです。

ただしその特性上、医師と患者の信頼関係を維持しつつ「偽薬であることを明かさずに」販売することは難しいように思われます。保険診療の費用と区別した内容の分かる領収証を発行するという点についても、対価を取って偽薬を販売することになれば明示するほかないでしょう。

また患者が支払う費用に関しても保険給付を受けることはできず、(偽薬には公定の薬価が存在しないため、医療機関が設定した価格にて)全額自己負担となります。

逆に、医療機関側が全額負担し患者への「譲渡」という形をとることも考えられます。この場合には信頼関係に沿って適切な処置が可能かもしれません。

薬局

医療機関の業務とは外れますが、病院・診療所が処方箋を発行した場合の薬局における偽薬の提供ともかかわります(なお、薬局・薬店・ドラッグストアでサプリメントやいわゆる健康食品等の食品を販売することは非常に一般的です)。

現状では医師が「偽薬の利用が患者に対して適切であり、療養に資する」と考えた場合、処方箋とは別に指示書等を交付した上で、調剤薬局から偽薬を提供することが可能だと考えられます。

費用負担については、「患者負担」、「医療機関負担」、「薬局負担」、あるいはそれらの組合せによるものと思われ、患者にとっては「(一部)自己負担」、「譲り受け」の形になります。

参考図書

参考図書を挙げておきます。医療機関でのサプリメント等の食品を販売することをお考えの方はご参照ください。自由診療や物販を法定知識に基づき始めたい医療者の方は必見です。