小規模多機能型居宅介護サービスは要介護高齢者のコンビニ?

小規模多機能型居宅介護」と呼ばれる、要介護者向けのサービスがあります。要支援者向けには、「介護予防小規模多機能型居宅介護」と呼ばれるサービスも。

2016年以降、いずれも地域包括ケアシステムの中核的な拠点の一つになると期待されています。

地域包括ケアシステム

介護保険で受けられるサービスは非常に多様でややこしいのですが、「居宅・在宅サービス」と「介護施設サービス」に大別できるでしょう。

日本国民の望み、あるいは国の方針としては、「施設」ではなく、住み慣れた地域における「居宅・在宅」での介護と看取りを積極的に実施しようとしていますが、現在のサービス供給状況では今後益々増え続ける高齢者の数に対し質も量も追いつかなくなると懸念されています。

介護離職の増加が既に問題となっていますが、サービス供給が追い付かなくなれば、今後さらに増える可能性が高いのです。

そこで、国や都道府県などの大きな単位ではなく市区町村が主体となり、地域の実情に合わせて介護や医療サービスの提供を一体的に行っていく枠組みが採用されました。これを「地域包括ケアシステム」と言います。

地域密着型サービス

地域包括ケアシステムにおいては、市町村の意向を反映させるしくみがいくつか組み込まれています。その一つが「地域密着型サービス」と呼ばれるもの。高齢者が住み慣れた地域で暮らすことができるよう、地域に住む要介護者・要支援者に向けて、市町村の指定を受けた事業者が提供するサービスです。

小規模多機能型居宅介護は8種類ある地域密着型サービスの内の一つであり、24時間体制で様々な形態のサービスを提供するという特徴を有しています。

小規模多機能型居宅介護あれこれ

小規模多機能型居宅介護とは、具体的にどのようなサービスなのでしょうか?

厚生労働省が提供する介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」より引用してみましょう。

小規模多機能型居宅介護は、利用者が可能な限り自立した日常生活を送ることができるよう、利用者の選択に応じて、施設への「通い」を中心として、短期間の「宿泊」や利用者の自宅への「訪問」を組合せ、家庭的な環境と地域住民との交流の下で日常生活上の支援や機能訓練を行います。

(出所)どんなサービスがあるの? – 小規模多機能型居宅介護|介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」

訪問・通い・宿泊を組み合わせる。また自立支援に重点を置き、介護予防まで範疇とする。まさに「多機能」で、さながらコンビニエンスストアのようなサービスです。

サービスの特徴

小規模多機能型居宅介護の大きな特徴として、利用者と事業者の双方にとって独占的な契約となることが挙げられます。複数の事業所とは契約できないのです。

A社の小規模多機能型居宅介護サービスを受けながら、B社の訪問介護サービスを受けたり、C社のデイサービスへ通ったりなどといったことができないわけです。

また、小規模多機能型居宅介護では、希望すれば24時間、365日いつでもサービスを受けることができます。まさに、要介護者にとってのコンビニエンスストアと言えるでしょう。

さらに、上記のような仕組みであるため利用者が負担する料金は、要介護度に従って「1月当たり」で決められています。回数や日数には制限がありません(詳細は「利用者負担|どんなサービスがあるの? – 小規模多機能型居宅介護」をご参照のこと)。

非常に融通の利くサービスですが、それゆえ、事業者にとっては安定継続的な提供がやや難しいと思われる仕事になっていることがお分かり頂けるでしょうか。

複合型サービス

小規模多機能型居宅介護の発展形として「複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)」と呼ばれるものもあります。

介護と看護、その違いがイマイチよく分からない方もおられるかもしれませんが、「看護」は医療サービスの提供がメインとなっています。従って、小規模多機能型居宅介護に「訪問看護」と呼ばれる医療ケアの機能が附属したものを「複合型」だと考えておけばよいでしょう。

コンビニの例で言えば、「薬局併設型」みたいなものかと。

中重度の要介護者が在宅生活を送る上で発生する医療的ニーズに応えるものと期待されています。

詳細は「どんなサービスがあるの? – 複合型サービス(看護小規模多機能型居宅介護)|介護事業所・生活関連情報検索「介護サービス情報公表システム」」で確認いただけますが、1月当たりの利用者負担でおおむね2,000~4,000円程度増額されるようです。

なお、複合型サービスを受けることができるのは要介護者のみであり、要支援者は受けることができません。

これまでの形

平成18(2006)年4月、介護保険法改正により制度化され誕生した小規模多機能ホームは、「宅老所」に起源をもつそうです(参照:「全国小規模多機能ホーム情報サイト:小規模多機能ホームとは?」)。

児童向けは「託児所」、老人向けは「宅老所」。

認知症高齢者の方でも気兼ねなく、住み慣れた地域で、できるかぎり環境を変えずにケアを受けることができる「宅老所」の取り組みが平成18(2006)年に「小規模多機能型居宅介護」として制度化されて10年。平成28(2016)年の今、どのような展開を見せているのでしょうか?

事業所数

まず、サービスを提供する事業所数の推移を各年10月時点の数字で見てみましょう。

小規模多機能型居宅介護サービスを実施する事業所数は平成26年10月の時点で4,800か所程度となっています。デイサービス(通所介護)が4万か所を超えるのと比較すれば、一桁少ない値となっています。

今のところ毎年一定数が増加しているようですが、平成26年度の介護保険法改正により小規模型デイサービス事業所が移行先を選択して小規模多機能型居宅介護のサテライト型事業所へ移行することが可能になったことため、今後一気に増える可能性があります。

受給者数

つぎに、各年10月時点のサービス受給者数の推移を見てみましょう。

平成26年では、要介護者が受ける介護給付(複合型含む)で8万人程度。要支援者が受ける予防給付が8千人程度となっています。

小規模多機能型居宅介護を実施する施設では登録者数が29名以下に制限されている為、サービス受給者数の増加は事業所数の増加に見合ったものになると予想されます。

融通の利くサービスには潜在的なニーズがあるため、受給者数の増加スピードは加速するかもしれません。

状態区分

最後に、要支援、要介護それぞれの状態区分の推移です。

要支援者、要介護者全体のトレンドを厚生労働省の「平成25年度 介護保険事業状況報告(年報)」より確認してみましょう。

(タテヨコ逆になってますが…)「小規模多機能型居宅介護」を全体と比較してみると、構成比としては「要支援1・要支援2」がやや少なく、「要介護1・要介護2・要介護3」がやや多いようです。

事業所によって偏りがあるのか、あるいは経営的に万遍なく受け容れるほうが安定しやすいのかは他のデータを参照しないと分かりませんが、全体でみた場合のこれまでのトレンドは今後も続くのではないかと思われます。

将来の見通しについて

超高齢社会となる2025(平成37)年度までに、小規模多機能型居宅介護や複合型サービスを受ける要介護高齢者の数はどれくらいになると推計されているのでしょうか?

厚生労働省の資料「第6期計画期間・平成37年度等における介護保険の第1号保険料及びサービス見込み量等について」によれば、2025年度において小規模多機能型居宅介護を17万人が、複合型サービスを2.3万人が利用すると推計(保険者ごとの推計を合算)されています。

介護保険事業状況報告(平成27年12月月報)によれば2015年が9.1万人となっていることから、今後10年でも伸びは2倍程度にとどまるようです。ただし、「社会保障に係る費用の将来推計の改定について」(平成24年3月)に基づく「改革シナリオ」においては2025年度に40万人が利用するとされ、大きなかい離があります。

将来推計については未知数

上記の「改革シナリオ」は平成24年3月時点での将来推計の改定によるものですが、なぜ改訂されたかと言えば「推計に用いた前提(平均寿命や出生率や成長率など)が甘々だったから」に他なりません。

実のところ、改定後の数値でもかなり甘く見積もられた(というか、そうせざるを得なかった?現実を直視することが憚られた?)数値であるようにも思われます。

すなわち、平成24年3月推計に基づく「改革シナリオ」でサービス受給者の見通しが40万人であったのが、より増加する可能性が大いにあります。「地域」で「在宅」で介護や看取りを実施することが拡大されてゆく中で、小規模多機能型居宅介護や複合型サービスの重要性も拡大してゆくでしょう。

地域包括ケアシステムの構築に積極的な市町村においては参入促進策がとられることになるかもしれません。

利用者視点、事業者視点

利用者の視点からすると、毎月の利用料が掛かるとはいえ365日、24時間のサービスには安心感があるでしょう。今後の地域包括ケアシステムの中核的拠点として期待されるのもうなずける話です。

「気兼ねなく」というそもそもの理念を曲解しないで利用すれば、これほど便利なサービスはありません。

一方、事業者の視点で考えてみると、コンビニ同様、24時間常に要員を配置しておかなければならないため、スムーズな人材獲得の可否が経営の安定性に直結します。国は事業者の更なる参入を促すとされていますが、介護人材不足が叫ばれる昨今、どれほどの人材と事業所を確保できるでしょうか。

ただ、利用登録者の数が制限されている為に登録さえしてもらえれば利用者の入れ替わりも激しくなく、安定的な運営が可能とも考えられます。小規模多機能型居宅介護には大きなニーズ(需要)があると思われますので、介護事業関係者の方は参入を検討されてみてはいかがでしょうか。

以下の記事で採算性等が検討されていますので、ご参考まで。

「小規模多機能型居宅介護|SKJケアラボ」

近所にあるの?小規模多機能型居宅介護

住まいのお近くに事業所があるか否かは、厚生労働省が提供するWebサービスにて検索することが可能です。

「介護サービス情報公表システム」より、「都道府県」を選択後、「介護事業所検索」→「サービスから探す」とページを移動し、「小規模多機能型居宅介護(または複合型サービス)」を選択します。

「地図を選択」で「地図から探す」もしくは「市区町村から探す」が選択できますので、お住まいの地域を選択して検索してみてください。

参考文献

当記事は下記の書籍を参考としました。

介護保険が気になりだしたら、是非お手元に置いておきたい一冊。