偽薬効果

偽薬効果

概要

ことば偽薬効果
よみがなぎやくこうか
英字表記例dummy effect

意味

薬効成分を含まない偽薬の服用により現れる、望ましい効果。

偽薬の服用による、過剰服薬の害を避けさせる効果。

「偽薬効果」は時代遅れの言葉

偽薬効果は、薬効成分を含まない偽薬によってもたらされるポジティブな治癒効果として広く受け容れられてきましたが、既に時代遅れの言葉として認識されつつあります。

その理由の一つは、ポジティブな治癒効果をもたらす対象が偽薬に限定されないことにあります。

外科的治療において効果があるとされる行為を省いた「偽手術」でも肯定的な治癒効果が現れることが知られるようになり、「偽薬」という限定的なことばでは捉え切れない現象だと認識されているからです。

また、より重要な理由は、「プラセボ」の訳語として「偽薬」では不足であることが挙げられます。

  • プラセボ:科学的に説明のつかない治癒現象をもたらすもの
  • 偽薬:薬の形をしているが、薬効成分を含まないもの

プラセボが否定形で非限定的にしか定義できない抽象的なことばであるのに対し、偽薬はより具体的で限定的なことばです。

「偽薬効果」と「プラセボ効果」

「偽薬効果」ということばは、「その効果に寄与したのは、偽薬そのもの」というプラセボ効果に関する過去の理解に沿って便宜上使用されているに過ぎません。

「偽薬効果」ということばは、「プラセボ効果」として示されるべき現象をありのままに表すことなく、単純化し過ぎている懸念があります。

現在では一般的に、偽薬が効いているのではなく、偽薬を用いた治療行為に関わる周辺事象の全体が被治療者に変化を及ぼしうると考えられています。

したがって、「偽薬効果」は「プラセボ効果」として扱うべきです。

訳語としての「偽薬効果」

偽薬がプラセボの一例でしかないのと同様に、偽薬効果もプラセボ効果の一例でしかありません。

したがって、「placebo effect(プラセボ効果)」の訳語として「偽薬効果」を用いることは出来ない場合があります。

ただし、日本語話者における「偽薬効果」と「プラセボ効果」の使用頻度は後者の方が高く、訳出するうえで実質的な問題となることはあまり考えられません。

漢字四字の厳めしく権威を帯びた重厚な響きを示す効果を利用する場合以外には、外来語をカタカナ語としてスムーズに採り入れうる日本語の強みを生かした「プラセボ効果」あるいは「プラシーボ効果」の使用が推奨されます。

英字表記例

本稿では、「placebo effect」と「偽薬効果」との差異、また当サイト内の整合性を鑑み、偽薬効果の訳語としてあまり一般的ではない「dummy effect」を用いています。

新たな「偽薬効果」の意味

偽薬が一般に流通し、誰でも簡単に手に入れることができるようになったことが、「偽薬効果」に関する新たな解釈を生み出しました。

効果のあるホンモノの薬(実薬)による害を、代替品として偽薬を用いることでなくす効果。

そんな解釈が生まれています。

薬を飲みすぎる高齢者

健康不安を抱えるお年寄りの中には、薬を飲むことが健康体でいるための最低条件であると思い込んでいる方がおられます。

「薬を飲まなければ、身体を悪くしてしまう」

そうした切迫した感情は、依存症に近い状態を生み出します

服薬行為に対する依存が生じた状態は「最高ではないけれど、止むを得ない状態」と本人に認識され、これを解消すること、すなわち薬をやめることは強く拒みます。

根底には、「薬を飲まなければ、今よりもっと悪い状態になってしまう」という不安があります。

偽薬の効果

周囲の介護者は薬を飲みたがる高齢者に対して、ホンモノであるとウソをつきつつ偽薬を服用させることで「薬を飲んでいる」という安心感を与えつつ、過剰服薬の害を避けることができます。

これは立派な「偽薬の効果」と言ってよいものです。

これからは効かないはずの偽薬が効いたという現象ではなく、過剰服薬による副作用を偽薬に差し替えることで止めるという事例こそ、「偽薬効果」と呼ばれるべきです。